天外伺朗さんは「土井利忠」(本名)という元ソニーの上席常務であり、技術畑を歩んでこられた方ですが、下村博文現文部科学大臣の私的ブレーン集団「教育研究会」のメンバーを2010年まで務められたきっかけになったのが本書であることが「むすび」に書かれています。下村さんが去年の第二次安部内閣で文科大臣に就任されたのを契機に「日本の教育」を巡る環境について、ご自身の経験を踏まえ、本書が新たな使命を持つのではと再版されたのだと思います。
教育学を修めたことのない私ですが、現役市長時代から不思議と教育関係についてご縁を頂くことが多かったですね。自分自身が発達段階で素晴らしい先生に会えたことが、今の自分を作ってくれたという思いがあるからでしょうか。校園長への訓示などという「大層」なタイトルがついた場所でも、「ふとしたことから人生を変えるかもしれない」言葉の発信者としての「教師」の重要性を話したことを覚えています。
本書の中に様々な先達の名前が出てきますが、著者が要約したポイントがわかりやすく、しかもうなずける内容が列挙してありました。モンテッソーリ、シュタイナー、デューイ、ニイル、グリーンバーグなどの名前と、コーチングのガルウェイ、フロー理論のチクセントミハイなどなど。いかに天外さんがフロー状態に入って研究されていたのかが良くわかります。
教育の目指すべき方向性というのは、特に発達途上にある子供たちにとっての環境整備。豊かな人生を歩むための基礎を、思いのままに前のめりに追求する時間と場所を保証するということでしょう。そんな思いで、「おせっかい教育論」で初めてお会いした内田先生に大阪市の特別顧問をお願いしたのです。その経緯についてはあとがきに記しました。
現在の日本の教育制度が様々な面で問題を抱えていることは多くの人が気付いているはずですが、それをコントロールする人たちが、まさにそんな教育制度のもとで、著者曰く「大脳新皮質シンドローム」にかかっている人たちだというのはブラックジョークにも聞こえると同時に、病巣の深さをも暗示しています。
この本が目指している教育のあり方を、今すぐに公教育の現場で実践できるものではありませんが、国の教育基本方針なるものの空疎な議論と予定調和の審議会答申などに振り回されず、本当に人間性豊かな市民を連綿と排出する為の学園が一校でも増えてくれたらいいのになぁと感じますし、市井の教育者(ばかりではなく企業人でも)の中に実践を積み重ねている方たちもおられます。
内田先生の特別顧問就任記者会見。私の横で「教育には行政とマーケットは介入すべきではない」と断言されたとき、「その通り」と思って内心、拍手を送ってました。多くの人が気付く教育現場の問題点、缶詰大量生産の子供を作りたいのか、点数至上主義のもたらすものなど、今後の公共政策ラボでも教育の本来の姿について、お話する機会があればと思わせてもらいました。